一般社団法人日本伝統空手協会 会長 空優会代表 髙橋 優子さま

強くなるのは優しい人間になるため。空手精神を広め、空手で世界中の人を幸せにしたい。

髙橋優子さま

髙橋優子さま

一般社団法人日本伝統空手協会会長、空優会代表。数々の国内外大会で優勝を経験し、2002年~2008年では全日本ナショナルチームに選出され日本代表として活躍。日本代表ではキャプテンも務めた。

空手は優しい人間になるためにある

――現在の主な活動について教えてください。

髙橋さま:一般社団法人日本伝統空手協会という団体を立ち上げて、空手で世界中の人を幸せにする、ということを理念に活動しております。

――空手で世界中を幸せにする、という点は具体的にどういうことなのでしょうか?

髙橋さま:これを話し出すと3日くらいは必要なのですが(笑)、簡単に言うと空手とは己のコントロールだと思っています。自分で自分自身をコントロールするって難しいんですよね。

さらに言えば心と体、どっちのコントロールが難しいかと言えば、絶対に心。泣きたい時に泣くのを我慢したり、怒りの感情を抑えたり。

一方、自分が命令できて自由自在に動かせるとしたら体です。右手をあげる、左手をまわす。まずは体をコントロールすることによって心も調和されていき、己のコントロールができるようになる、と。

――まずはそこが土台になるわけですね。

髙橋さま:はい、空手は強くなる、というイメージだと思いますが、何のために強くなるのかというところが大事だと思っています。

第一に「優しい人間になるため」です。

そもそも空手の技術は防衛です。受ける動作がいくつもあって、その受ける技術を高めるために突きがあって蹴りがある。このようにして防衛する技術を身につけているからこそ強くなるんです。

だからこそ私たち指導員が指示を出す必要はなくて、本当に必要なのは優しくすること。優しさをたっぷり与えて、その優しさが溢れたら人に分け与えられるようになるはずです。

私たち指導員がよく言い合っているのは、強くなるのは優しくなるためであると。優しさをいっぱい教えていこうねと話しています。

この空手精神を広げていくことが世界の平和につながっていくだろうと考えていて、それこそが私たちのやるべきことだと思っております。

――日本伝統空手協会が行っている独自の活動などはあるのでしょうか?

髙橋さま:たくさんあるのですが、そのなかの新しい試みが「段」と「資格」を繋げているという特徴があります。

段は技術の道であり、資格は活動になっていきます。武道とは伝統であり受け継ぐものですから、自分の道だけだと「球」にならないんです。

だからこそこの段をとるためにはこの資格が必要ですよ、という段の道と資格の道を行き来させるような仕組みで構成されています。

例えば三段の人が四段をとるためにはこの審判資格が必要だから、この大会に審判として参加してください、というように段をとるための活動を促しています。こうすることで活動が活性化していき輪が広がっていくと考えています。

95%は本能でやっていた

試合中の髙橋様

――空手を始めたのが高校3年生とのことで、おそらくタイミングだけで言えば人より遅かったと思います。なぜそのタイミングで空手を始めたのでしょうか?

髙橋さま:私は中高でバレーボールをやっていて、高校では特に厳しい環境で競技をしていました。そのなかで少し攻撃的な部分に違和感を持ち始め、私が目指している強さはこういうことじゃないのでは?と疑問がどんどん大きくなっていきました。

そのタイミングで空手をやっていた叔父が、「大学に行ったら空手をやったらどうだ?」と声をかけてくれたんです。

薦められた大学は空手が強い大学で、通常であれば高校の時点で全国ベスト8くらいには入っていないと入部できないという大学でした。

しかし、たまたま私の代では初心者も受け入れようという動きがあったので経験のない私でも入部資格があり「やってみるか」と思ったのがきっかけでした。

――かなりスムーズに空手に移行されていますが、空手のどんなところに魅力を感じたのでしょうか?

髙橋さま:この質問をされるまで考えたこともなかったのですが、逆にスムーズにいかないものですかね?という感覚です。もう自然と「やるか」という気持ちでした。

――空手の前に経験していたバレーボールが生きた場面はありますか?

髙橋さま:もちろんです。バレーボールはとにかく練習量が多かったです。朝練をやって授業が終わって21時までまた練習をします。1日に6時間くらい練習をしていることになるんですね。

そうなると当然心臓が強くなって体力が桁違いにつきます。これは空手の経験がなく、人よりもスタートが遅い自分にとって最大の武器になりました。

空手は1回の稽古が長くても3時間でしたから、体力に物を言わせて周りについていった感じです。

――3時間でも結構長いですよね。(笑)

髙橋さま:それもそうですね。普通は2時間くらい。笑

そんな体力という武器があったので、それを前提に計算したら普通の人の4倍やれば大学4年生になったときに他の人とならべるなと思ったんです。

――理論ではそうかもしれませんが、実際それをやり遂げるには相当な熱量が必要だったと思います。そのエネルギーはどこからきたのでしょうか?

髙橋さま:ひとつには「泥臭いことをやる」という自信がありました。そして何より、高校のときに最初に通った道場の先生の言葉が大きかったです。

その方が「君だったら日本代表になれる」と言ってくれました。

でも代表チームに入るだけじゃダメなんだ。実際に日本代表として出場できるのは各階級1人だけ。その1人に入らなければいけない。でも君なら入れる。

そう言ってくれたんです。私も単純なので「じゃそうしよう」と思えたんですね。

――その後、数々の国内外大会で入賞されています。空手のキャリアが他の人よりも短いなかで、なぜこれだけの好成績を残せたのでしょうか?

髙橋さま:現役時代の95%の時間は本能でやってましたね。とにかく空手が分からないからこそ蓋を開けてみないと自分の今日の調子も分からなかったです。

試合を始めてみたら優勝した、かと思えば別の試合では初戦で負けた、というような感じでとにかく本能でやっていました。

それでも最後の最後「あ、空手(組手)ってこういうことなのか!」という瞬間があって。なるほど空手は頭脳だったのか、と。気づいたのが現役時代でいうと残り5%くらいのときだったので、もっと早く気付きたかったです。

――そこに戦略があったということですね?

髙橋さま:戦い方ですね。本能だけでやっていたときは戦い方を知らなかったので、負けてもなぜ負けたのかがわかりませんでした。

そんな私が勝てたのは運と、指導者と仲間に恵まれたということですね。自分を鍛え上げてくれる指導者と仲間が本当にたくさんいました。

――本能でやっていたくらいですから、ある意味相当な集中力でやっていたのでは?

髙橋さま:そうかもしれませんね。決して優勝したいという意識ではやっていませんでした。そのもっと先で「強くなりたい」という意識でやっていました。

優勝そのものはもちろん求めていることでもあります。でもなぜ優勝したいかと考えたときに、それは自分が強くなっていることを確認するためでした。

キャプテンはやる気の象徴

表彰台

――そうして日本代表に選ばれたわけですが、経歴だけみるとあっという間のように見えます。髙橋様にとってはどのような道のりでしたか?

髙橋さま:あっという間でした。始めて2年くらいで国体の決勝戦までいきました。初めてそこで空手を選んで良かったのかも、と思えました。

そこからナショナルチームの選考会を受ける権利を得て、そこでもたまたま良い試合ができ、運良くナショナルチームに入ることができました。ですが、そこでは当然強い方々ばかり。合宿では上の階級はもちろん、下の階級とやっても全敗。

常に全敗していたのに、世界大会の選考会では、なぜか運良く全勝してしまったんです。そうして世界大会の出場権を得ました。

――なぜか勝てた、ということですが今振り返ってそれはなぜだったのでしょうか?

髙橋さま:今でも分かりません。笑

そうして世界大会に出場するのですが、初戦が前回大会の優勝者でした。結局初戦では負けてしまうのですが、その選手が決勝に進んだ場合は敗者復活枠が追加されるというシステムだったんです。

その敗者復活枠で勝ち進み、結果的には3位になれました。

――強運だけでは片付かない何かがあると思うのですが、ご自身ではどう感じていらっしゃいますか?

髙橋さま:海外の本能的で野性的な戦いに向いていたのだと思います。日本の選手は相手を分析してそれに合わせて戦略を練って戦ってきます。

しかし、海外の選手は体を思いっきりぶつけてきてパワー勝負をしかけてくるので、私からするとそれがやりやすかったです。

――数々の試合を勝ち抜いてきたと思いますが、そのなかで特別な経験や瞬間はありますか?

髙橋さま:直感が働く瞬間があります。空手の試合では「やめ」と言われてから位置に戻り「はじめ」で試合が再開するという流れが基本的な流れです。

ある試合で「やめ」の声がかかり、位置に戻ったとき「あ、次すぐいけばとれるな」という直感が働きました。実際に「はじめ」の声がかかると、すぐに前に出て技ありをとることができたんです。

そんな瞬間が5、6回はありました。「次いけ、とれる」と囁かれるような感覚です。

――それが発動する条件みたいなものはあるのでしょうか?

髙橋さま:完全に私の感覚ですが、コートがあって周りには観客がいます。コートの中には審判が5人いて、監査がいて係員がいます。その空間にはたくさんの人がいて誰かしら自分の試合をみているわけです。

それでも一瞬だけ誰もみてないような瞬間があるんです。ほんの一瞬、全員が視線を離すような瞬間。その瞬間は絶対にポイントをとることができました。

――スポーツには必ずそういう不思議な瞬間や感覚がありますよね。

髙橋さま:はい、あとは間合いです。これ以上近づいたら危ない、という間合いに入るとどうしても肩に力が入ります。でもそこでふっと肩の力を抜いたときが最高に気持ちいいんです。

特に自分より大きい相手のときは相手の間合いに入らないといけません。だからどうしても恐いんですけどそこにあえて入り込む瞬間に脱力する。この特有の感覚がある気がします。

――日本代表のキャプテンを務められた際、チームをまとめるうえで大切にしていたことは何ですか?

髙橋さま:日本代表になる人ですから、誰かに頼ろうと思う人もいません。キャプテンだからどうこうなんて全くありませんでした。

ただ、やる気の象徴でなければ、という想いはありました。最も志が高く、最も勢いのある存在でいる必要があると。

絶対に優勝する、絶対に勝つ、苦しい練習も一番やる。そういった姿勢を見せることが重要だと思っていました。

これは空手が特殊か、それとも私だけの感覚かはわかりませんが、本当に仲良くなれるのは現役時代が終わった後だと思っています。なぜなら互いを叩き合わなきゃいけないから。仲良しこよしではいられなかった。その代わり今では、共に戦った戦友たちは私にとって親戚と同じくらい特別な人たちになっています。

とにかく空手を楽しんでいる

表彰台

――日本代表として海外の大会に出場された際、印象に残っている国や選手はいますか?

髙橋さま:やはり最初に出た世界大会の初戦、フランスの選手はとにかく大きかったです。手足が長くてパワーもあるので蹴散らされた、という印象です。

体格の違いは避けられないけど、それを前提に臨めば勝てる、それが空手だということを再確認した出来事でもありました。

――世界大会と国内大会で雰囲気の違いはありますか?

髙橋さま:そうですね。やはり日本だとだいたいの選手のことを知っています。知らない選手がいても調べればわかるのですが、世界大会ではデータがなくそうはいかないので、そのあたりの違いはありますね。

ただ、世界大会でも前の試合を見たりすれば戦い方がわかっているか、そうでないかである程度の判断はできると思います。

――戦い方がわかってる人とそうでない人の違いは何でしょうか?

髙橋さま:まずは「己を知っているか」ということだと思います。こうやってポイントをとる、ここで勝ちに行く、ここにいれば相手の攻撃は受けない、ここにいたら危ない、そういったことを把握できている人です。

これがあるかないかでは雲泥の差がでると思っています。しかしその部分で言うと、手足が長くトリッキーな海外の方々との試合は、日本人は分析が難しかったかもしれませんね。

――そういった難しい状況のなかでもいつも通りの空手はできるものなのでしょうか?

髙橋さま:逆にそういう状況のほうが、ある意味調子にのるというか、集中できましたね。もちろん波があって、ダメなときがあり、乗り越えて、またダメな時がきて。そういった時期を経て何があっても関係ない、勝つのみ、その次は勝ちも考えない、いわゆる「無」というメンタリティにもっていくことができるようになりました。

――海外の選手と向き合う中で、日本の空手との違いや特徴を感じたことはありますか?

髙橋さま:日本人は頭、海外は頭にプラスして力でくるという違いはあります。だからこそ度胸が必要でした。海外の選手は力が強く衝撃が凄まじいのでそれを覚悟する必要はありましたね。

――海外の空手文化や武道に対する姿勢から学んだことはありますか?

髙橋さま:海外の人の方が伝統を重んじる心が強いかもしれませんね。海外から来てくださったある生徒さんは、とても綺麗な礼をする生徒さんでした。

稽古が終わって道場を出た後、駅の方向が分かるかなと思って2階から見ていたんです。そうしたら外に出たところで、道場があるビルに向かって礼をしていたんですね。

もうグサっときてしまって、この心は忘れてはいけないなと感じました。

――海外の人ならではの部分ですね。

髙橋さま:日本の文化や日本の空手道に憧れている、楽しむということが根底にあります。それで言うと、海外の人はとにかく空手を楽しんでいます。その姿は衝撃でしたね。

バレーボールをやっているときからずっと厳しい環境でしたから、とにかく勝つことが目的だった自分にとってニコニコしながら空手をやっている姿は本当に素敵でした。

礼の美しさと空手が人生に繋がるという点は海外の人から学ぶことが多かったです。

指導者が上に立つのではなく、隣に立って背中を支える

指導中

――こちらの空優会ではどのようなことを大切にして空手を指導しているのでしょうか?

髙橋さま:その人のそれぞれの人生を経て、数ある道場のなかからここを選んでくれた人が来ます。その人の空手はその人のものであって、うちの道場のものではありません。

だからこそ指導者が原因で、その人の歩みをとめてしまうことがないようにしたいと思っています。

指導者が上に立つのではなく、隣に立って背中を支える、道を間違えそうになったらこっちだよと案内する、立ち止まったのなら無理をさせず背中をなでる、もっと早く進みたいなら背中を押す。

その人の空手の道なんだということを忘れてはいけないと思っています。

そして子どもは18歳になったときに素敵な人になっていればいい。だから今この瞬間できなければいけないわけではないと思うんです。

子どもは時間をかければどんどんできるようになっていきますから、そのときを信じて待つことが大切です。それでも待つことは時に難しいですね。

――そう思います。ついつい手出しや口出しをしてしまいそうになります。

髙橋さま:それでも待つことですね。力を行使して無理矢理やらせることもできますが、それはその人の道ではなくなってしまいます。10年後、素敵な人になったその子をイメージして信じて待つことです。

そういった見えないものを見る目をもっている人が指導者だと思っています。

――子どもや若い世代を指導する中で、空手が人生に与える影響をどのように感じていますか?

髙橋さま:人として生きていく軸になると思います。

まず道場に入るときは礼をします。挨拶をする、靴は揃える、脱いだものは畳む、目を見て人の話を聞く、大きな声で返事ができる、これらは生きていく上で強い軸になります。

空手は基本がすごく細かくて、やってはいけないこと、やらくてはいけないことが決められています。

形は挙動数も決まっていて、動作も決まっている。ルールを守り、与えられたなかで自分らしさを出していく。

組手稽古の基本は「相手のことを考える」こと。空手では弱点を突くんだけど、日常では、反対に相手が笑顔になる行動をとる。この人に必要だろうと分かれば前もって準備する、この人は辛いだろうと分かれば手を差し伸べる、この人はこうしたいのだなと分かれば、それがやりやすいように自分が動く。

こんなこと当たり前で、無意識にやるべきこと。空手技術が体に染み付いていくと、意識せずとも自然とできるようになっていくんです。

人としての礼儀を学びながら、見えないものを見る目を育てる。空手での経験は、生きていくうえでも最も大切なことを無意識でできるようになる、そのまますべてが人生で役立つことだと思います。

――指導者として忘れられない生徒さんとのエピソードはありますか?

髙橋さま:学校の教室でじっとしていられない子どもが道場に来たことがあります。最初はさすがにずっといられなくてということがあったのですが、回を重ねるごとに礼ができて、体操ができて、結果的に最後まで練習ができるようになりました。

これは本人にとっても成功体験ですし、何よりここが自分の居場所なんだ、自分がいていいんだ、ということがすごく大きなことだったようで、学校でも授業を受けられるようになったそうです。

――まさに上に立つのではなく隣に立って背中を支えるということの大切さが分かるエピソードですね。

髙橋さま:そうだと思います。あとはコロナ禍に入ってきた女性がいました。

その方の職場には理不尽な上司がいて、ひとつも意見ができなかったそうです。それでも空手をはじめると道場では声を出すし、相手の攻撃に対して受ける動作をします。

そういったことを繰り返しているうちに、職場でも冷静に上司のことを見ることができるようになったそうです。それから意見もできるようになったり、言いたいことの中から言うべきことと言わなくてもいいことを選択できるようになったと話していました。

「ここに来てすごく変わったんです。」と話してくれる姿はとても素敵でしたね。

――空手を始めることを迷っている人に、どんな魅力を伝えたいですか?

髙橋さま:ラジオ体操くらい全員ができた方がいいと声を大にして言いたいです。やるとやらないとでは残りの人生が180度変わると思っています。

「鍛える」という言葉を使うと厳しいイメージがありますが、空優会は「楽しく」をモットーにしていますから、良い仲間に囲まれながら楽しく過ごしていたら、知らぬ間に心身ともに鍛え上がっていきますよ!

――今後、ご自身が空手を通じて実現したいことは何でしょうか?

髙橋さま:今、大きな目標があります。

それは、日本伝統空手協会総本部道場を建てること。我々の理念を体現した世界の伝統空手家が集う「空手道の総本山」を作りたい。

世界中から研修生を募集し、そこで共に稽古し、技術だけはなく日本文化、武道思想、空手道精神、教育哲学を学ぶ。研修期間を終えたら、それぞれの国で一流の空手指導者として活躍できる人材を育成する。

技術より心術、と言う言葉があるのですが、空手という技術を使って、広げたいのは日本の心です。研修期間を経た指導員たちが、世界各国でこの心を広げていく、それが結果「世界の平和」につながると信じています。

世界に空手が伝わっていき、世界に仲間が増えていけば争いはなくなって世界は平和になると思っています。

――髙橋さま、本日はありがとうございました。

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